211009 「草の響き」舞台挨拶によせて
2021年10月9日、新宿武蔵野館で行われた「草の響き」の舞台挨拶に伺いました。
場内には作品イメージの展示ブースも作られ、作品の歓迎ムード高まる中、主演の東出昌大さん、奈緒さん、そして斎藤久志監督が登壇され、貴重なエピソードが披露されました。
そういったエピソードを交えつつ、本作の完走を語ってみたいとおもいます。
「草の響き」には、様々な立場の困難に遭遇した人々が現れる。
東出昌大演じる主人公カズオは、仕事で困難に遭遇し、心を病む。
そして彼を取り巻く人々、妻ジュンコ、親友のケンジ。
勉強は出来るが部活がうまくいかない高校生のアキラ、中学のときに虐められて不登校になった経験を持つヒロト。
心を病んだ当事者以外にも、取り巻く人物も作中には登場する。
その精緻な描写は、心を刻みつけるほどのものだ。
同じ苦しみを持つ鑑賞者が本作によって救われてほしいと、主演東出はインタビューや舞台挨拶で繰り返し語っている。
そして劇場で出会った斉藤監督からも、私はそのように声をかけられた。
救われてほしいと言われても、本作は決して「癒やし系」の作品ではないし、「理想論」「綺麗事」が描かれているわけでもない。
同じような経験をした者ならば、危ういほどに生々しい「綺麗事じゃなさ」を痛感することができるだろう。
実体験が作中で「再現」される。
登場人物らは、それらを乗り越えて成功するだけではない。
物語だけど、架空の登場人物だけど、うまくいかないし、惜しいし、つらい思いをする。
その「再現」が、追体験が、一種の寄り添いのように私には感じ取られた。
舞台挨拶で東出は、見出しにするとセンセーショナルにもなるそのラストの出来事を「肯定する」と言った。
自分が辛い経験をした人々や、周りの人が辛い思いをした人。
誰もがその「肯定」に、意味を見出してほしいとおもう作品だった。